IoT、ICT農業の先進事例とは?スマート農業の全体像を解説!
現在、日本の農業は労働人口の減少と高齢化という大きな課題を抱えています。その解決に向けて、農業にIoT・ICT技術を組み込む流れが進んでいます。
また、特に2018年以降は政府が積極的にICT農業の推進を押し出しており、『2025年までに、農業の担い手ほぼすべてがデータを活用した農業を実践できる環境を整備する』という声明を行っています。
本記事では、現在話題となっているICT農業とは一体どういったものを指すのか?という点に政府の方針に触れながら紹介していきます。
IoT、ICTを活かしたスマート農業の現在
政府の動き
平成28年より、内閣府主導で「規制改革推進会議」という会議が開かれ、その一つの議論の分野として国が農業分野への規制改革に乗り出しています。以下、第37回規制改革推進会議における安倍総理のプレゼンテーションから抜粋です。
第四次産業革命により世界は大きく変化しています。チャレンジを阻む、岩盤のように固い規制や制度を打ち砕き、改革を進めていく。安倍内閣の決意は、揺るぎないものであります。(…中略…)地方創生を力強く進める鍵も、規制改革です。ドローンの活用を阻む規制など、農林水産業の成長産業化のための規制の見直しを始め、地方の活力を生み出す改革にも取り組んでまいります。
現在の農業には様々な制度上の問題があり、それがドローンを始めとするICT農業の普及を阻害していると言われています。「キレイで・カッコよく・稼げる」“3K”の農業を目指して、人手に頼っている重労働を機械化するために、制度改革が進められています。
ロボット技術の安全性確保に向けたルール作り
現存する規制や制度は、もともと人間への安全性を考えて作られているものです。しかし、ここ20年間の急激なテクノロジーの発展により、既存の安全対策の枠を超えた技術が現れ始めています。
最も代表的な例としては、GPS自動走行システム等を活用した農機具が挙げられます。トラクターの自動走行などは近年現れたテクノロジーであり、農機具が自動で動くことなどは考えられていませんでした。
しかしながら、いまの自動走行トラクター、コンバイン、除草ロボットやドローンなど最新のICT機器はほとんどがGPSが搭載されており、こうした機械が安全に走行可能な制度が整えられる必要があります。また安全性確認の実証実験も進められており、無人での自動操作や周囲の監視だけでなく、非常時の停止操作、圃場から圃場への移動なども実験されています。
さらに、特にドローンに焦点を絞ると、これまでの規制が大きく緩和される方向に動いています。自動飛行の解禁や、農林水産航空が管理していた安全基準等の解体が今年から始まっています。IoT、ICTを活用したスマート農業は現在、古いルールから新しいルールへの入れ替えを行う過渡期と言えるでしょう。
導入が進められているロボットの例
無人走行トラクター
メリット:
- 1人で複数台のトラクターを操作可能
- 限られた作期の中で1人あたりの作業可能な面積が拡大、大規模化が可能に
- 4割近い作業時間を削減可能、かつ夜間作業も可能
自動運転田植機
メリット:
- 田植え作業と苗の供給を一人で実施可能
- 熟練者並みの精度で、スピードを維持しながら効率良く植え付け可能
- 除草剤の散布も(機体によっては)同時に可能
- 機体の前方にRTK-GNSSアンテナを装着し、位置ズレなく作業ができる
ドローン
メリット:
- ドローンに搭載した特殊なカメラから得られたデータから、圃場の作物状態が把握可能になる
- データを元に施肥・農薬散布等を行うことで、効率的な栽培が可能になる
自動走行コンバイン
メリット:
- オペレータが登場した状態での自動運転による稲・麦の収穫が可能
- タンクに入った収穫物の量をセンサーが感知し、最も適切なタイミングで運搬用トラック付近まで自分で移動し、積み降ろしが可能に
- 収穫時の労力を減らすだけでなく、約1割の作業時間短縮が可能
土地利用型農業(水田農業)分野での取り組み
現在導入が進んでいる技術
経営・営農管理システム
圃場の状況をデータで可視化し、作業計画の作成や、作業の進捗管理等をシステム上で一元的に管理します。これによって、農場の経営状態を把握することが出来ます。
また、複数人で運営している水田を効率的に管理することもできます。
水田の水管理システム
水田の水位などのデータをクラウドに送り、スマートフォン等で給水バルブ・落水口を遠隔または自動で制御できるシステムです。
センシングデータや気象予測データなどを管理し、水管理の最適化及び省力化をすることにより、水の管理にかかる時間を約8割削減できるというデータもあります。また、気象に合わせた最適水管理で収穫量が下がるのを防止できます。
自動操縦の農機
自動走行トラクター、田植え機、コンバインなど
上記で挙げたように、GPSによる誘導と自動操舵技術を組み合わせることにより、田植えや代かき等が不慣れなオペレーターでも高精度な作業ができます。これによって、資材の無駄や作業負担を低減します。また、機械のオペレーションによって作業時間を大幅に削減することや、夜間での作業が可能になります。
ドローンに関する技術
ドローンによる精密農業・センシング
圃場全体を撮影し、生育状況のマップを作成します。現在研究が進められているのは主に特殊なカメラを使用したNDVIといったデータですが、その他にも様々な技術や手法で生育状況の解析の研究が進められています。
また、生育状況のマップを経営・営農管理システムに一元化してデータ活用を行う動きもあります。
ドローンによる施肥・農薬散布
生育状況に基づき、必要な場所へ必要な量の農薬・追肥を行います。
その際の飛行方法として今後の制度改正が見込まれる自動飛行が大きく着目されており、解禁されれば老人の方でもボタンを押せば農薬散布や追肥を行える未来を目指しています。
農業データ一元化の取り組み
農業データ連携基盤
スマート農業や農業のICT化にはデータの活用が必要不可欠です。しかし、現状はデータやサービスが相互に連携できず、様々なデータが散在していること、データの規格が決まっていないことなどからデータが活用できていない課題があります。また、データ流出や悪用のリスクから農家がデータ等の提供に消極的なことも挙げられます。
これを受けて政府は、農業の担い手がデータを使って生産性向上が出来る環境を生み出すため、データ連携・共有・提供機能を有するデータプラットフォームの構築を進めています。これが通称、『農業データ連携基盤』と呼ばれるものであり、『WAGRI』という名前がついています。WAGRIは2019年4月より本格稼働予定です。
WAGRIとは?
WAGRIはスローガンとして、”By sharing data, agriculture can move into a new level”と掲げています。『データシェアで、農業は新しいステージへ』という意味です。
こうした民間ではなく政府が管理するプラットフォームがあることで、農業事業者、政府、民間企業(農機具メーカーなど)といった農業に従事する人は、システム開発などに利用しやすい形でのデータ提供が可能となっています。
WAGRIはデータの連携、提供、共有という3つの利活用を想定して機能が作られています。
このように、WAGRIは連携・共有・提供という3つの機能により、農業に関わるあらゆるデータを集約することを目指しています。
またWAGRIの強みは、官民を問わず様々な団体からデータを収集・提供できる点ことです。気象や土壌の状況などの作物に関する情報だけでなく、市場動向といった点に関するデータまで、幅広い分野の情報が入手可能となっています。
農林水産省技術政策室はWAGRIの全体像を以下の図のようにまとめています。
農機具とデータが連携したスマート農業の姿
このように、現在は国が主体になってスマート農業が推し進められており、各農機具メーカーの製品が一つのデータ連携基盤を中心に連動するように未来の農業が目指されています。
農家は自分の圃場にセンサーを設置し、取得したデータをそれぞれ農業関連のICTサービス上に保存していきます。そのデータは他のシステムと連携することも出来ますし、Privateデータとして安全に保存することもできます。また、データを公開にすることで他の農家とデータと共有が可能になります。
また、ドローンで取得したデータ等も農業ICTサービスやデータ連携基盤と共有させることで、他の農機具と連携させて可変施肥を行うといったことも研究が進められています。
いかがでしたでしょうか。
このように、農業に関わるデータの活用を通して営農管理を行い、農機具の連動だけでなく、農業に携わる全ての人を巻き込んでいくのが政府が目指すスマート農業やICT農業です。
農家の高齢化や人手不足から『課題先進国』と呼ばれる日本ですが、そのために官民共同で知恵が絞られています。2025年を見据えた新しい農業の普及に期待が集まります。
参考:
スマート農業の実現に向けた取組について:農林水産省(平成30年3月)
スマート農業の展開について:農林水産省(平成30年9月)
スマート農業一貫体系のイメージ:農林水産省(平成30年9月)
オープンデータ官民ラウンドテーブル説明資料:農林水産省技術政策室(平成30年9月)
農業ICTの現在地―今、日本の農業に何が必要なのか:マイナビ農業
農業データ連携基盤の構造と連携イメージ:オルタナティブ・ブログ