AIで変わる!ドローンを活かした精密農業の先進事例とは?
人工知能(AI)という言葉が2016年から流行し始めています。いよいよ政府が第一次産業である農業にAIを用いた先端技術の導入を進めています。
農林水産省の『スマート農業技術カタログ』によれば、以下のような技術の一部にAIが盛り込まれています。
- 経営データ管理
資材や売上、労務等の管理を行う技術 - 栽培データ活用
気象や熟練農家のノウハウ等の栽培に関するデータを活用する技術 - 環境制御
水田の水管理や畑のかん水、園芸ハウスの温度管理等を行う技術 - 自動運転/作業軽減
自動で作動するロボットや機械の運転アシスト、農作業の軽労化等を行う技術 - センシング/モニタリング
作物や環境等の状況についてデータを提供する技術
本記事では現在農業のIT化、AI化の最先端を走る技術と製品を紹介していきます。
自動運転農機
農業×AIと考える際に、センサーの付いた機械や、ITらしいデータを見れるタブレットといった製品を思い浮かべる方は多いと思います。
しかし、農業AIの主役はまだまだクボタやヤンマー、ISEKIといった農機具が主導権を握っています。一番最初に農業機械を持ってくることは外せません。
具体的には、
- 自動運転トラクター
- 田植機
- コンバイン
などがあります。
GPSやRTK技術を搭載した自己位置測位で、夜間でも自動的に運転して作業を行ってくれます。
農家さんには既に非常に馴染み深い機械ですので、詳細は割愛します。
農薬散布ドローン
今後のICT農業やAI技術を担ってく技術の一つとして、ドローンが大きく挙げられます。
農業でドローンができることは大きく分けて2つあります。
①農薬や肥料を散布できる
②広大な圃場のデータを取ることができる
まずは①の農薬散布が出来るドローンを紹介していきます。
農薬散布自体はヤマハ等の無人ヘリで30年ほど前から行われてきました。しかし、農薬散布ドローンの登場により、無人ヘリよりも安く、誰でも簡単に、農薬・肥料の散布が可能になりました。また、自動飛行が可能になることで、ルートを作ってしまえばボタン一つで圃場への散布が完了します。
なお、後述する「リモートセンシングや作物解析といった難しい作業は不必要。散布さえ行えれば大丈夫」という農家さんはまだ大多数を占めています。農薬散布ドローンさえ購入すれば、”いま現在負担になっている” 殺虫殺菌剤や除草剤の散布が非常に楽になります。
以下、自動飛行が可能な代表的な農薬散布機体を紹介します。
DJI 「AGRAS MG-1S Advanced」
AGRAS MG-1シリーズは2016年にDJIより登場した、農薬散布ドローンの領域を切り開くパイオニアとなった機体です。
従来農薬散布ヘリが飛んでいた広大な圃場だけでなく、中小規模の田畑や高低差のある山間地域などでも活躍できるのが特徴です、また、液体の農薬だけでなく、粒剤の農薬や肥料なども散布できる粒剤散布機も登場しています。
自動飛行が可能に設定されており、散布性能に関しても農林水産航空協会の認定を取得しています。豊富な障害物センサーと8枚羽での安定飛行が特徴です。
FLIGHTS「FLIGHTS-AG」
『農家が農機具のように気軽に使えるドローン』をスローガンに開発された機体です。
個人農家でも導入しやすい「100万円以下の価格」で、自動飛行といった最新の技術に対応しています。また、お年寄りの方でも使いやすいように、FUTABA製プロポに対応しています。
ドローンは頭脳の部分が共通なことが多く、飛行性能は実際のところどのドローンも大きく変わりません。そのため、安価でも他のドローンと同様のパフォーマンスを見せてくれます。
散布性能に関しても、安全性テストが繰り返されており安心です。液剤の散布だけでなく、粒剤散布にも対応予定です。
また、この後にお伝えするリモートセンシングとの連携も研究が進められています。いわゆる『ドローンのデータを活かした農業』を行いたい場合、後述するリモートセンシングとデータ解析は別のシステムで行い、それらのデータを元にドローンを飛行させて散布を行う流れが普及すると考えられます。
ドローン:リモートセンシング
前述したドローンの特徴のうち、②広大な圃場のデータを取得できるについて解説していきます。この②に該当するのが、「リモートセンシング」と呼ばれる分野になります。
現在スマート農業カタログに記載されているだけでも、クボタやヤンマー(ファームアイ社)、オプティム、ドローンジャパン他、多数の企業が競って研究を進めています。
しかしながら、基本的に各社がやっていること、目指していることは類似しています。
- ドローンとマルチスペクトルカメラという特殊カメラ用いて空から画像撮影。その画像から生育ステージを可視化する生育マップを生成。このマップを使用して迅速に作業判断が可能になる。
- 生育のムラに応じて可変施肥を行う。これによって病害虫被害や雑草といった作物の被害状況を広域把握し、収穫量や品質の安定化に繋げる。
こういったことが共通点として挙げられます。
ドローンから撮影した画像やデータはクラウド上にアップロードされて各社のサービス上で管理されます。
作物データ解析
ドローンで様々なデータを取得しても、そのデータから『次に何をすべきか』という行動に落とし込むのが出来ないのが、従来の「リモートセンシング」あるいは「精密農業」の課題でした。
AIの登場はその課題解決の糸口を生み出しました。リモートセンシングで取得した作物のデータをAIを用いたシステムに読み込ませることにより、今までリモートセンシングのデータでは分からなかった作物の異常を検知できるようになったからです。
こうした作物データ解析を行っている代表的な会社を見てみます。
スカイマティクス「いろは」
現在まだサービス化には至っていないようですが、AIでキャベツを解析する研究を進めています。キャベツのサイズの判別や、病害虫が発生しているキャベツの特定等を行えます。また、生育状況から収穫量の予測ができるのが大きなメリットです。
現在は全国でキャベツの画像データ収集を進めているようです。母数となる写真を増やし、AIがキャベツを解析する精度を高めていくタイミングに入っています。
ナイルワークス 生育診断サービス
ナイルワークスは稲作に特化した農薬散布ドローンをつくっているメーカーです。
完全自動航行を実現しており、一つの機体でセンシング、解析、散布まで行えるのが特徴です。初期から稲作に注力しており、AIによるディープラーニングで稲の生育データが蓄積していることが強みです。
水稲栽培においてナイルワークスが目指しているのは以下になります。
- 生育状況のリアルタイム診断
- 診断結果に応じた最適量の農薬、肥料散布の実用化
- 生育環境と品種の特性から、最適栽培計画の提案
- 稲のデータから誤差5%以内の収量を予測
ただし機体やシステムが大規模であり、農家が購入する形での直接導入はまだ広まっていないようです。
オプティム「Agri Field Manager」
リモートセンシングで撮影した画像データと、IoT機器でセンシングした気温・湿度・日照時間といったデータを組み合わせてAIでの解析と管理を行うプラットフォームです。AIを用いた病害虫の発見に優れており、異常地点の解析や病害虫へのピンポイント散布までを視野に入れています。
また、生育分析を行うことで高品質・高収量な作物の好適環境条件を見出すことができ、効率的な圃場管理が可能です。最終的にはAIによる病害虫の発生予測までを目標にしているようです。
今後については、実際に農家が自分で導入して運用する仕組みにはなっていないようなので、どういった形で普及するのかは不明です。
スマート営農管理
セラク「みどりクラウド」
みどりクラウドは、ハウス(温室)の状況を遠隔地から把握できる温室内環境モニタリングシステムです。既存設備に簡単に設置可能で、電源を入れるだけですぐに使え、操作は簡単なシステムです。
「みどりクラウド」では、各種センサーを統合した「みどりボックス」を使用します。温度(気温、土壌温度)、湿度、日射量、CO2濃度、土壌水分量などを計測するためのセンサーと、カメラが備わっています。取得したデータはPC、タブレット、スマートフォン、携帯電話などからいつでも確認できるほか、異常が発生した場合はアラートの通知を送ることもできます。
また、新しく発表された「みどりボックスPRO」では、防水・防塵機能を強化を行い、これまでのビニルハウス内での使用だけでなく、稲作や畑作などの露地栽培にも対応するようになりました。
PS Solutions「農業AIブレーン e-kakashi」
e-kakashiを使用すると、圃場の気象予測をもとに適切な対策ができるようになります。具体的には圃場の気温、湿度、風向、風速、降雨量などを1km四方単位のピンポイントで得ることができます。ちなみに、PS Solutionsはソフトバンクグループのサービスプロバイダーです。
また、データに基づいた適切な気象災害対策や病害虫発生の予防作業が可能になります。単に圃場のの気象情報を表示させるだけでなく、植物科学の知見を組み込んだAIが分析を行い、可能性のあるリスクへの対策をユーザーに提案してくれます。
加えて、作物ごとに推奨設定が事前にインストールされており、農家が栽培マニュアルを作成しなくても、栽培に関していつ何をやるべきかをナビゲーションしてくれます。
最新のアップデートでは、複数の装置の制御が可能になりました。園芸施設(ビニールハウス)の窓を開け閉めする窓開閉モーターや、水やりを行う灌水バルブの等を制御できるようになっています。
いかがでしたでしょうか。
今回ご紹介するのは以上になりますが、続々と新たな農業×テクノロジーの製品が産まれており、政府が目標としている2025年に向けて一気に普及が進んでいくことが予想されます。今後の動向に期待です。
参考:
株式会社スカイマティクス:IROHA
株式会社オプティム:Agri Field Manager
マイナビニュース:セラク、「みどりクラウド」でビッグデータ/AIによるカスタムメイドの圃場分析
PSソリューションズ株式会社:ekakashi
株式会社ナイルワークス:圃場上空30~50㎝から自動で薬剤散布と生育診断