水稲の主要な病気・害虫を解説。病害虫防除のポイントは?
水稲作での農薬散布は、雑草の管理と病気・害虫の防除の2つが挙げられます。日本は高温多湿な気候もあり、水稲の栽培では古くから病気・害虫との共存を行わなければならない環境でした。
発生する病害虫の種類も多種多様であり、農薬の使用量も世界的に見て高い水準にあると言えます。本記事では、一般的に水稲栽培において米農家が注意を払っている病気・害虫について主要な種類の病害虫を紹介していきます。
主な稲の病気:いもち病
- 主因:カビ(糸状菌)
- 誘因(栽培環境):窒素過多、多湿、日照不足、冷水、密植がいもち病を促進
いもち病は水稲栽培において最も大きな被害を発生させる病害です。
糸状菌(かび)が引き起こす病害で、25℃~28℃の温度帯と高湿度を好みます。
水滴を経由して感染するため、梅雨など稲体に水滴が付着する時期が長時間続くときに多く発生します。
病斑ができてからも、大量の胞子を飛散させるには高い湿度が必要であるので、蒸した気候が長期に渡って続くときに蔓延します。
いもち病は、苗いもち、葉いもち、穂いもちと水稲のどの時期にも発生して長続きします。そのため被害が大きくなりがちです。
葉いもち
- 発生時期:6〜8月
葉に発生するいもち病で、白点、褐点、慢性および急性の4タイプがあります。葉いもちでは、病斑に葉がやられて生育が抑制され、悪化すると新しい葉も出すくみ状態となります。この状態になると、もはや収穫まで出来なくなります。
防除
- 平年初めて発生する日の約7〜10日前に液剤を水面に散布
- もしくは、発生開始期の直後から7日以内に散布剤を用いる
- 移植前の育苗箱の段階で施薬する箱施用の農薬が増えています。
穂いもち
- 発生時期:8〜10月
穂いもちでは、穂首部に褐色の病斑ができす。すると首から先の穂に栄養が届かなくなり、品質が低下します。養分供給が阻害されたことにより、稔実不良や着色米の発生、籾の入らない白穂が発生します。
稔は出穂後の早い時期ほどいもち病に感染しやすいという特徴があります。また、葉いもち病班は穂いもちの伝染病として進展するので、まず、葉いもちを多発させないように気をつける必要があります。
防除
- 出穂前に葉いもちの感染を防いでおくのが重要
- 出穂直後が最も感染しやすいので、そのタイミングで感染を防ぐ
- 穂いもちの場合は、穂ばらみ末期から穂揃期が農薬散布を行う適切な時期
その他の稲の病気
紋枯(もんがれ)病
稲の病気として次に有名なのが紋枯病です。この病害も糸状菌(かび)が引き起こしますが、いもち病とは違う種類のかびです。
最初は稲の水際の茎葉部に病斑をつくります。それが徐々に病斑が上へと伸びていき、葉まで達することがあります。そこまでいくと、収穫に被害が出始めます。また、茎葉が病斑によって弱まり倒れやすくなるので、背の高いコシヒカリ等の品種はより注意が必要です。
その他の稲の病害菌には、近年発生が多くなっている稲こうじ病やごま葉枯病、細菌が原因の白葉枯病などがあります。
気候や地域によって発生状況が異なるため、地域の発生予測情報に気をつけましょう。
防除
- 薬剤散布の際は、病患部の葉鞘につくように下のほうを狙う。
- 茎葉散布剤による防除は、病斑が上の方に進んでくる穂ばらみ期から出穂期が適期。
- 暖かい地域では幼穂形成期から穂ばらみ期が1回目の散布適期となる。逆に北日本では気温が上昇してくる7月下旬から8月上旬に散布を行う。
ごま葉枯れ病
この病害も糸状菌(かび)が引き起こします。
出穂期以降に発症することが多く、葉に暗褐色の楕円形のような病斑が現れ、まわりに黄色くぼんやりした色が出ます。暑い夏に雨が多いと多発し、水田では下の葉から上の葉へと発病が進みます。
土壌に窒素やカリが不足している時に発生する事が多いため、老朽化した水田に多い。また養分保持力の地裁浅耕土や、砂質の土壌の「秋落田」にも多い。
発症が進むと稲の圃場全体が土色に見える「穂枯れ」の症状が起こるのが特徴で、そのまま稲全体が枯死します。
防除
- 土壌改良で水田を良好な状態にする。また、窒素・カリ・ケイ酸を使用し後期に肥料切れが起こらないように調整する。
- 薬剤散布を穂ばらみ期〜穂揃い期に散布する。
害虫について
害虫は、植物への被害の与え方によって大きく2つのグループに分けられます。
- 吸汁性害虫:植物内の養分の汁を吸って被害を与える害虫です。
- 食害性害虫:植物の体を直接食べて穴を空けたり食い切ったりといった被害を与えます。
また、被害部位も3通りに分かれます。
- 植物の地上部である葉や穂に影響を与える害虫
- より地面に近い茎や地際部などに被害を与える害虫
- 地下部の根などに被害を与える害虫
この前提でそれぞれ害虫を見ていきます。
カメムシ類
カメムシは、水稲栽培における吸汁性害虫の代表であり、穂にダメージを与えます。
被害を与えるカメムシは「斑点米カメムシ」と呼ばれます。
稲穂が出たばかりの頃にカメムシが米粒の汁を吸うと、吸われた部分が黒く変色します。日本では、こうした「規格外」に分類されるお米が1000粒に2粒入っているだけでお米の取引価格が大きく下がるため、農家さんもカメムシ防除には必死です。にも関わらず、各地域で深刻なカメムシ被害は後を断ちません。
日本で散布される農薬の有効成分で最もポピュラーである「ネオニコチノイド系農薬」もカメムシの防除を目的に使用されることが多いです。
防除
- カメムシ類は、稲が穂を出し始める7月初期に水田に飛び込み、穂の汁を吸う。
- 田んぼの中に雑草が多いと発生しやすいため、カメムシ防除のための除草を行う
- カメムシが水田に飛び込む時期を狙って殺虫剤の散布を行う
ウンカ類
ウンカもまた吸汁性害虫の代表であり、主に茎葉に被害を与えます。
セジロウンカ、トビイロウンカ、ヒメトビウンカなどが有名です。
ウンカは稲の葉や茎から汁を吸って枯らしてしまうため、田んぼの一部にぽっかり穴が空いたように稲を枯れることがあります。繁殖力が旺盛で、田んぼを全滅させることすらあります。
ウンカは寒さに弱いため、冬になると日本からいなくなります。しかし、ウンカはアジア大陸で冬を越したあと毎年6月から7月に梅雨前線の気流に乗って飛んできます。そのため、西日本に発生することが特に多く、現在も増加傾向にあります。
また、特にヒメトビウンカのようにしまはがれ病を中心とした病原菌を運んでくる問題もあります。ウンカは収穫期にイネを枯らしたりウイルス病をうつすため、きちんと防除しないとコメの収量が大きく減少することになります。カメムシと並んで注意が必要です。
防除
- セジロウンカ:吸汁害対策として7〜8月に本田の薬害防除を行う。
- トビイロウンカ:孵化したばかりの幼虫の発生時期を見て散布する。
- ヒメトビウンカ:しまはがれ病の発生防除のための散布を行う。
イネミズゾウムシ
イネミズゾウムシは食害性害虫であり、葉と根に食害を与えます。
まず、成虫と幼虫ともにイネの葉に被害を与えます。被害を受けた葉はのちに短冊状に裂けます。また、幼虫は孵化すると土壌中に入って根も食害するため、イネの生育を悪くします。
成虫は5月下旬~6月上旬頃にイネの葉鞘に卵を産み付けます。この頃が成虫と幼虫の防除に最も適した時期ですので、防除適期を逃さないよう、イネミズゾウムシの幼虫はふ化して土壌に潜る前に防除を行いましょう。
イネドロオイムシ
イネドロオイムシは葉への食害を与えます。
年1回の発生で、草むらで成虫の形のまま越冬し、5月下旬頃に本田に集まって産卵を行います。成虫と幼虫による葉の食害があると、初期生育の遅れをもたらします。稲が成長すると、穂が短くなる、粒数が減る、稔実が悪くなる、米の質が落ちるといった問題が発生します。
5月上旬から6月に低温が続き、多雨で湿潤の日が多いと発生が多くなります。
コブノメイガ
コブノメイガも葉への食害が特徴です。
鱗翅目メイガ科に分類される「蛾」です。
ふ化した幼虫は稲の葉肉を食害します。食害部分が白くなるのが特徴です。多発生した場合は、圃場全体が白く変色し、大きく収穫量が減ります。
7月〜9月までの期間稲を加害しますが、上位葉から止葉までの葉肉を食害し、登熟に影響を与えます。未熟粒が増えることで大きな減収につながります。
トビイロウンカと同様に、コブノメイガも東アジアから気流に乗って飛来します。そのため、西日本での被害が深刻であり、九州では7〜9月にかけて3世代のコブノメイガが月ごとに食害するため被害が深刻になりがちです。
ここで紹介した種類だけでなく、地域ごとに合わせて多発する病気や害虫の種類は変わります。地域の病害虫の発生予測情報等をチェックし、必要な防除対策を行いましょう。
参考:
水稲栽培のポイント:農林水産省
水稲栽培の基礎知識
水稲栽培の手引き
いね いもち病
病害虫図鑑:JAあいち経済連
トビイロウンカ、コブノメイガの生態と防除対策:シンジェンタジャパン株式会社
図解でよくわかる病害虫のきほん:㈱誠文堂新光社