水田への除草剤散布の注意点とは?使用が適した除草剤は?

2019/10/11

水田や畑に被害を与える有害生物には、病原菌や害虫の他に「雑草」があります。

雑草による作物の影響は病害虫ほど大きくありませんが、放っておくと一気に繁殖し、作物から水分、養分などを奪うため、品質低下など大きな被害をもたらします。また、病害虫の温床になるといったデメリットもあります。

防除の対象となる雑草の生育状況や特性をよく理解し、雑草に応じた対処法を考えることが必要です。今回は雑草の種類と防除用の農薬について説明していきます。

雑草について

一年生雑草と多年生雑草

雑草には大きく分けて、「一年生雑草」と「多年生雑草」があります。

一年生雑草の特徴:

  • 簡単に引き抜くことができる
  • 抜いた植物には、根がついてくる

多年生雑草の特徴:

  • 引き抜きにくい
  • 引き抜くと根が切れる
  • 根と一緒に根茎がついてくる

一年生雑草は、種子が発芽してから枯れるまでが一年間のサイクルです。それに対して、多年生雑草は地上に見える部分が枯れても地下の栄養繁殖器官が残っており、複数年にわたって生き続けます。

一年生雑草は地面から比較的浅い所で発芽するので、除草剤が効きやすいという特徴があります。また、深耕を行って土壌の表層と深層を入れ替えることで、浅い層にある一年草の種の発芽を阻害することができます。

雑草の系統

雑草には別の系統があり、田畑の雑草は大別すると

  • イネ科
  • カヤツリグサ科
  • 広葉雑草

この3つに分けることが出来ます。それぞれの系統に対応する特有の除草剤があるため、現在困っている防除の対象となる雑草の系統を把握することが重要になります。

また水田の雑草には、

  • 水をはった状態の湛水状態で成長する「水生雑草」
  • 湿った土壌で発育する「湿生雑草」

この2種類があります。

水田雑草のほとんどは、水生雑草が占めていますが、水生雑草は地中に酸素がなくても発芽可能なため、相当に厄介な雑草だと言われています。

難防除雑草

草のなかでも、文字通り防除しにくい目立つ雑草を意味します。難防除雑草には生態的な特性から多年生雑草を指す場合も多いですが、一年生雑草もあり得ます。

例えばオモダカ、クログワイなどの多年生雑草は、土壌中の『塊茎』という地下にある茎から、土中の深いところから発生します。このため、水稲の栽培期間に次から次へと発生し、防除が難しい雑草とされています。

この多年生雑草を効率よく防ぐには、効果が長く持続する除草剤を早めに散布しておくのが定石といえます。しかしながら、発生が多い水田などでは、通常の除草剤の一回散布のみでは除草しきれないことがあり、複数回の除草剤散布といった対策を行う必要があります。

代表的な雑草の種類

一年生雑草:ヒエ

最も代表的な水田雑草、かつ多大な被害を与える強害雑草に、イネ科の「ヒエ」があります。田んぼに生えるヒエには主に3種類があります.タイヌビエ、イヌビエ、ヒメタイヌビエなどがあり、総称して「ノビエ」と呼びます。ノビエの防除には有効な除草剤である「ヒエ剤」を使用します。

ノビエは除草剤が多く使われている現在でも、残草しやすい雑草の一つと言えます。水田では全国的にタイヌビエが発生し、暖かい地方ではヒメタイヌビエが多くみられます。最近はイヌビエも水田の中でも目立つようになりました。

ヒエがもたらす悪影響として、イネを追い越すほど大きく成長することで、稲の収穫量を減らしてしまうことが上げられます。極めて成長スピードが早いため、稲の近くに生えるヒエは稲の栄養を奪い取り、生長不順を引き起こします。ヒエの近くにある稲は、3m以上離れている稲と比較して、半分以下しか穂がつかない、粒が小さい、品質が低いといった害が発生すると報告されています。

また、ヒエはカメムシの温床になります。ヒエは成長が早いため、イネより早く出穂します。そのタイミングで斑点米カメムシ類が田んぼに侵入し、そのままヒエから稲に移動して吸汁、害を加えます。また、田んぼ内で産卵して繁殖を行うため、そのまま斑点米カメムシの被害拡大にも繋がります。

一年生雑草:コナギ

水田に発生する最も代表的な一年生広葉雑草であり、水田の強害雑草として知られています。生育スピードが早く、イネより早く成長してしまうため、分けつ期のイネや成長が遅れたイネの生育にダメージがあります。

分けつ期に養分を奪い合ってしまうことが多いので、生育初期からの除草剤による防除が重要です。最近は除草剤に対して抵抗性のあるタイプも出ているため注意が必要です。

多年生雑草:オモダカ、クログワイ

クログワイ、オモダカは、土中の深いところに形成された塊茎から出芽します。そのため一つの塊茎から出てきた個体を防除しても、その年か次の年には同じ塊茎の別の芽が現れてきます。水稲の栽培期間を通じて次から次へと発生し、防除が難しい雑草です。

また、初期生育が旺盛で、除草剤によるダメージからの回復力が強い傾向があります。両種とも発生期間がだらだらと長く、除草剤の影響を受けづらいのが特徴です。一回の除草剤散布では完全に防除できません。

多年生雑草を効率よく防ぐには、効果が長く持続する除草剤を早めに散布しておく必要があります。ただし、一発処理除草剤を一回散布しただけでは除草しきれないことがあります。このような時には、後期剤の散布と組み合わせて数回に分けて防除を行うのが基本です。

多年生雑草:イヌホタルイ

イヌホタルイはカヤツリグサ科の雑草で、強害雑草とされています。

イヌホタルイの草丈は20〜60cmぐらいで、ノビエのようにイネよりも大きくはなりません。ですが、水田で密生するとイネと養分が競合し、イネの生育が悪くなり収量が減ります。

耕起や代かきといった方法で防除できますが、種子が小さくたくさん形成される場合があるため、除草剤を使用することが不可欠です。しかし、最近は今まで使用されていたスルホニルウレア系除草剤が効かないタイプが出始めており、防除が極めて難しい植物となっています。

田圃への除草剤散布について

使用適期の注意

水稲除草剤には除草剤が持ちうる能力を最大限に発揮できる適期があります。この時期を外して使用しても、雑草の取りこぼしが発生します。除草剤を使用する場合は、この使用適期をきっちり守る必要があります。

近年は温暖化により雑草の発生が例年より早くなり、いつもと同じタイミングで散布しても適期を外してしまい、雑草の取りこぼしが出てしまう事例が増えています。このため、確実に除草効果を得るために、雑草の発生状況をよく確認しましょう。

また、除草剤には枯らすことができる雑草の大きさに限界があります。限界を超えた雑草に除草剤を撒いても、残念ながら効果不足になるか取りこぼしの原因になってしまいます。雑草の生育速度を水田全体をよく観察して散布を行います。

除草剤抵抗性雑草

最近の除草剤は多くの種類の雑草に効果がある性能の高いものがほとんどです。しかも、一回の散布ですむものが多くなっています。そのため、除草剤のラベルの適用雑草欄に、例えば「ホタルイ」と書いてあれば、従来であればどんな薬を使ってもその後イヌホタルイ等で困ることはありませんでした。

しかし、最近は薬剤に対して抵抗力を持つ除草剤抵抗性のイヌホタルイが増えてきています。そのため、「抵抗性のイヌホタルイ」に効果のある成分が入った除草剤を使う必要が出てきています。このように、雑草の除草はより困難になっています。

除草剤の種類について

除草剤の種類は、有効成分だけでなく、使用時期によっても分類されます。

  • 初期剤:田植え直後から田植え5日後頃までに使用する除草剤
  • 中期剤:田植え20日〜25日後頃までに使用する除草剤
  • 後期剤:それ以降に使用する除草剤
  • 初中期一発剤:1回の処理で初期と中期の両方の期間をカバーできる除草剤

現在は、初中期一発剤が主流を占めています。
さらに、同じ名前の除草剤でも、剤型によってさらに分けられます。

  • 粒剤:1kgキロ剤など。昔から使用されている
  • 液剤:フロアブル剤など
  • 豆つぶ粒剤:粒剤を改良し、豆粒状の粒剤を撒く省力型の剤型

初期剤

初期剤は移植前から移植後間もない頃に使用する除草剤です。
初中期一発剤、または中期剤と組み合わせた体系処理で使用します。

初期剤は移植前の使用に登録がある剤は、散布してから移植まで7日間以上間隔を空けなければなりません。雑草発生量が多い、代かきから移植までの期間が長い、オモダカ等の発生が見られるといった圃場では初期剤の処理が必要です。

補足として、近年普及している田植同時散布は、早めの散布により安定した除草効果が得られる省力的な散布方法として初期剤・初中期一発処理剤の散布方法として確立されています。

ただし、田植時は苗が弱く、水稲にとって薬害の出やすい時期であること、残効の短い除草剤は残効切れで効果不足や雑草取りこぼしが発生する点に注意が必要です。そのため、後期剤等との組み合わせは必要になるケースが多くあります。

初中期一発処理剤

処理時期が早いものでは移植時から使用でき、ノビエにも効果があります。薬剤の残効が長いため、一度の処理で除草を済ませることができます。このように非常に省力なので、現在主流となっている除草剤です。

しかし、オモダカ、クログワイといった難防除雑草は、初中期一発剤のみの処理では防除しきれません。また、難防除雑草が発生する圃場で初中期一発剤のみの処理を毎年行い、その結果防除しきれず残った個体が年々増殖し続けて繁殖するケースがあります。

その他、通常はノビエなどの一年生雑草は、初中期一発剤のみの処理で防除が可能ですが、圃場に雑草発生量が多いと、効果が切れてきた頃に発生したものが生き残ることがあります。

初中期一発剤は万能ではないのでその他の除草剤と組み合わせて使用することが推奨されています。

後期剤

後期剤は、中期剤散布以降に使用する除草剤と幅広い時期に散布する薬剤を総称します。

現代では初中期一発剤で防除を完了させることが主流になっていますが、ノビエ、ホタルイ、オモダカ、クログワイといった問題雑草は一度の散布では足りないことがあります。

例えば、

  • ノビエ
    初中期一発剤で防除しても、後発のヒエが残草として多数残ってしまい、カメムシの温床になる
  • イヌホタルイ
    除草剤抵抗性雑草であるため一発剤が効かず、取りこぼした雑草にカメムシが繁殖する
  • クログワイ、オモダカ
    塊茎から繁殖し、極めて寿命が長くだらだらと発生するため、防除した雑草が再度成長してくる

といったことが起こります。

そのため、ヒエ専用除草剤や、広葉・カヤツリグサ科専用剤などそれぞれ得意な草を現場に合わせて選定します。初期剤・一発処理剤との体系で使用することで、出穂以降の穂の品質や等級の低下を防ぐことができます。

このように、雑草防除には圃場の環境に合わせて初期剤、中期剤、後期剤と組み合わせた体系処理を行う必要があります。どんな雑草をどのタイミングで除草するかが非常に重要なので、雑草の防除を行う側はしっかりとした雑草の生態系への知識が必要とされていると言えるでしょう。

参考:
農薬取締法:農林水産省
農業をめぐる情勢:農林水産省
産業用無人航空機用農薬:一般社団法人 農林水産航空協会
水稲用除草剤の初期剤・初中期一発剤の上手な使い方:千葉県農林総合研究センター生産技術部
難防除雑草対策:みんなの農業広場 (一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
ヒエが稲にもたらす悪影響:シンジェンタジャパン株式会社
水難雑草シリーズ ホタルイ:シンジェンタジャパン株式会社
【現場で役立つ農薬の基礎知識 2013】[2]水稲用除草剤の上手な使い方:農業恊同組合新聞
図解でよくわかる病害虫のきほん:㈱誠文堂新光社

2019/10/11